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ゲーム画面遷移等の法的保護(東京地裁H25.11.29 平成23年(ワ)29184号)

 本件は、「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(原告ゲーム)をSNS上で提供・配信している原告が、他の野球ゲームを提供・ 配信している被告に対して、主位的には、被告のゲームの提供が著作権侵害(複製、翻案、公衆送信)に該当し、また、原告ゲームの影像や構成が 周知又は著名な商品等表示若しくは形態であることを前提に、被告ゲームの影像や構成等が原告ゲームの影像や構成と同一又は類似しているとして、 不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競争に該当すると主張して、差止や損害賠償請求をした事案である。さらに、予備的に、被告が行う被告ゲームの 提供・配信は、原告の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張し損害賠償を求めた事案である。
 主な争点は、著作権侵害の成否、不競法2条1項1号、3号該当性、一般不法行為該当性などであったが、原告ゲーム中の原告が主張する部分については、 創作性がなく、特徴的部分となり得るものでないことを認定した上、全ての争点について原告の主張を認めなかった。結果、原告の請求は棄却された。
 今回は、著作権の成否はここでは触れず、あくまで不正競争防止法2条1項1号、3号の点と一般不法行為の成立についてのみ触れる。

判示事項

ゲームの進行が商品等表示に該当するか
「この点、ゲームの進行なるものは、抽象的な観念にすぎず、それを基礎として具体的な表示となるものとしてゲームの影像とその変化の態様が 商品等表示性が認められることがあり得るとしても、ゲームの進行自体が独立して取引の対象とされて周知または著名な商品等表示として認めるに足り る的確な証拠はないから、不競法2条1項1号及び同項2号所定の「商品等表示」には当たらないというべきである。」


ゲームの映像とその変化の態様の商品等表示性に該当するか
「ア ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、かつ、そのような特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程に わたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されることなどにより、当該影像が需要者の間に広く認識されているような場合には、 当該影像が不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るし、または、当該影像が著名といえる場合には、当該影像 が不競法2条1項2号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るものと解される。」
「イ しかし、・・・、原告ゲームは、個々の要素を個別に判断しても、また、その配列・構成を全体的に観察しても、他に例を見ない独創的な特徴 を有するものであると認めることはできない。」
「ウ また、原告ゲームについては、その全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されて、原告ゲームの影像とその変化の態様 が需要者の間に広く認識されていたとか、著名であったと認めるに足りる的確な証拠はない。」


ゲームの画面表示の展開が3号の「商品の形態」に該当するか
「(2) 不競法2条1項3号は、他人の労力、資金の成果を、他の形態をとる選択肢があるにもかかわらず、ことさら商品を完全に模倣して、その他人と 競争する行為を不正競争行為として規制するものであるところ、不競法における「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によ って認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいうところ(同法2条4項)、それは知覚に よって認識することができる有形的な商品の具体的な形状をいうものであり、無形のアイデア、商品の機能及び商品の抽象的な形態の特徴は含まれないと解すべきである。」
「(3) これを本件についてみると、原告が主張する原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」、「試合」の五つの要素 における各画面表示の展開の組み合わせといったものは、前記1(4)イで説示したとおり、原告ゲームの遊び方、進行方法若しくはゲームのルールであって、 それ自体無形のアイデア、商品の機能若しくは抽象的な形態の特徴にとどまるというべきであるから、不競法2条1項3号の「形態」に当たると認めることは できないというべきである。」


一般不法行為(額に汗)が成立するか
「(1) 原告は、原告が費用や労力をかけて原告ゲームのゲームシステムを構築したにもかかわらず、被告が原告ゲームのゲームシステムを完全に模倣 することによって、そのような費用・労力をかけることなく高い収益が望める被告ゲームを作成して配信しており、かかる行為は、先行者の築いた開発成果に いわばただ乗りする行為であって、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱するものとして不法行為を構成するというべきであると主張する。」
「しかし、著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な利益を認めるとともに、その独占的な利益と国民の文化 的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な利益の及ぶ範囲、限界を明らかにしていることからすれば、 ある著作物が同法による保護を受ける著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は法的保護の対象とはならないものと解すべきである から、著作権法による保護を受けない著作物の利用行為は、同法の規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなど の特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成21(受)第602号、同23年12月8日第一小法廷 判決・民集65巻9号3275頁参照)。また、市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと、相手方の競争行為が不競法の定める不正競争行為 に該当しない場合、当該行為が、ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなど自由競争の範囲を逸脱する態様で、不競法の定める不正競争行為 の規制による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が存在しない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」
「これを本件について検討すると、原告が主張するところの、原告が費用や労力をかけて作り上げた原告ゲームのゲームシステムに関して保護されるべき利益とは、 結局、原告が著作権法及び不競法によって保護されるべきと主張する法的利益、すなわち、原告ゲームの個別的、全体的な表現、若しくはゲームの遊び方、 進行方法、ゲームのルールといったアイデアや抽象的な特徴に基づく利益と何ら異なるものではないところ、それらの点が著作権法及び不競法によっては 保護されないものであることは前記判示のとおりであり、また、本件全証拠を精査しても、被告が被告ゲームを配信し、収益を得る行為がことさら原告に 損害を与えることを目的として行われたなどの自由競争の範囲を逸脱する行為であると認めるに足りる事実も窺われない。そうすると、被告が被告ゲームを制作し これを配信する行為には、著作権法の規律の対象とする著作物の利用若しくは不競法の定める不正競争行為の規制による利益とは異なる法的に保護された利益を 侵害するなどの特段の事情は認められないというべきである。」


コメント

 ゲームに関する事件については、著作権侵害という形で争われるケースが昔から多い。プログラム自体を複製、翻案されているような場合には、著作権法 による保護は受けやすいが、プログラムを駆動することによって表現される画面デザイン、画面遷移、ストーリーなどが似ているようなケースでは難しい 判断となる。本件でも著作権侵害の主張が中心となっているが、裁判所は、個別の特徴的部分またゲーム全体について侵害の有無を細かく判断し、著作権侵害 は全て否定された。
 そして本件では、著作権侵害だけでなく、ゲームの進行、ゲームの映像とその変化態様が不競法2条1項1号に該当するとして争われたが、およそ予想通りの 結論となった。すなわち、ゲーム進行自体は、表示として捉えることができないものであるから、商品等表示に該当しないと判断された。また、ゲームの映像等は、 商品形態と同様に特徴部分の顕著性と長年の使用によって識別性を備えた場合に商品等表示に該当し得るとしたものである。 これは商品等表示性が争われたいわゆる図書券事件において、図書券を利用して図書を購入するサービス自体が商品等表示として保護されるか、「図書券の利用が 可能である」との表示が商品等表示に該当するか、という議論とパラレルな関係にあるといえる。結論としては妥当な判断である。
 次に2条1項3号についてであるが、「商品の形態」の意義については、知覚によって認識することができる有形的な商品の具体的な形状をいうものであり、 無形のアイデア、商品の機能及び商品の抽象的な形態の特徴は含まれないと述べ、条文に従った妥当な判断をしたと思われる。 3号は、他人の労力、資金の成果を、他の形態をとる選択肢があるにもかかわらず、ことさら商品を完全に模倣して、その他人と競争する行為を不正競争行為として 規制するというものであるから、個人的には、商品に限らず丸パクリのサービスに対しては、別の条文で一定程度保護を与えてもよいという気もする。 ただ、3号は先行投資回収という趣旨であり、商品とサービスで、同様に考えてよいのかという点はしっかり考えなければならない。
 最後に著作権侵害や不正競争行為が否定された場合の一般不法行為の成否であるが、著作権に関連するものとして、有名なデータベースに関する地裁事件や 前記判決でも指摘する最高裁判例があるが、本件では、不正競争の場合にも同様に考え妥当することを明言した。ただ、実際には、著作権侵害や不正競争行為が否定 された場合に別途一般不法行為の成立が認められる場合は限りなく0に近い気がする。不正競争行為や著作権侵害行為自体が不法行為なわけだから、これに該当しない 別の法益が侵害されたような場合にのみ不法行為が成立するとするわけであるから、実際なかなか難しい。 但し、実際の訴訟では、著作権侵害や不正競争行為に該当すると主張しつつ、予備的には一般不法行為については結構主張されている(私も実際主張することもある)。