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退職後の競業避止義務(大阪地裁H27.3.12 平成25年(ワ)10955号)

 本件は、原告の経営する学習塾に勤務していた被告が、他の被告と共同で原告の教室の近隣で学習塾の営業を始めたことについて、 雇用契約上の競業避止義務違反等に基づく差止、損害賠償請求、また、塾生管理情報の不正使用などとして不正競争防止法2条1項4号の不正競 争に該当するとして使用差止等を求めた事案である。
 退職後の競業避止義務を定めた誓約書の有効性について争われ、企業側の投下資本回収の保護の必要性を認め、本件の「退職した後2 年間は,会社で指導を担当していた教室から半径2キロメートル以内に自塾を開設することを禁ずる」との競業避止義務条項を有効とした。 結果、被告には雇用契約上の競業避止義務違反があり、差止、損害賠償請求は認容。営業秘密持ち出しは証拠上認められないとして棄却

判示事項

「本件規定は,原告を退職した後2年間は,会社で指導を担当していた教室から半径2キロメートル以内に自塾を開設することを禁ずるものである。
学習塾業界においては,何よりも収益の柱は,塾生の確保である。そして,需要者は,サービス提供主体の選別に当たり,ブ ランド,教材,費用,合格実績等のほか,講師の指導力もそれなりに大きく考慮するものと考えられ,現に担当する講師との間に信 頼関係が生じている場合には,その講師が近傍で独立しようとする場合には,これに追従することは容易に想定される。 他方,上記信頼関係は,当該講師が純粋に個人的に構築したものではなく,企業たる学習塾と塾生との関係を踏まえて成立するものであり, 当該学習塾が投下した資本の上に成り立つものである。したがって,本件規定は上記投下資本の回収の機会を保護するため の合理的なものであって,合理的な範囲で退職後の競業を禁止することは許容されるというべきである。
 本件規定の制限が合理的な範囲かどうかを検討すると,本件規定においては,退職後,2年間に限り,会社で指導を担当していた教室 (退職時に所属していた教室をいうものと理解される。)から半径2キロメートル以内(小中学生にとって通塾に適さない 程度の距離と思われる。)の限度で,自塾を開設することのみを禁ずるものであって,上記圏外で開業することはもちろん, 上記圏内であっても,競合他社において勤務することは禁じられていないこと,従業員の講師業務としての経験をいかして継続し て講師業務を行うことは本件規定に所定の地理的,時間的範囲及び態様以外ではなんら制約されないことからすると,本件規定が 合理性を欠いて無効であるということはできない。また,以上によると,特段の代償措置が講じられていなかったとしても,上記合理 性の判断に影響を及ぼすことはないというべきである。」


コメント

 退職後の競業避止義務違反と営業秘密の侵害はセットで主張されることが多い。今回は、不正競争防止法に基づく営業秘密侵害の 部分については持ち出した事実が認められず棄却されているため、この点についてはコメントすべきことはない。
 今回は、採用時の誓約書の効力に関する点についての判示事項が少し変わっていたため取り上げた。退職後の競業避止条項につ いて、緩やかな内容であったことから、代償措置を設けないでも合理性が認められるとされた。退職後の競業避止義務は、元 従業員側の職業選択の自由という憲法上の権利を全面に押し出して争われるが、他方で企業側には営業の自由があり、これもまた 憲法上保障されるものである。判示でも、企業側の投下資本の回収の機会を保護する必要性が示されている。